江波杏子の代表作は大映〔現 角川映画〕のドル箱シリーズ「女賭博師」ですが 本作は藤純子が引退した同年、それに代わる女博徒を 大映倒産あとの江波杏子に託して作られたものです。
呉服屋の娘 江波が 父親と恋人を死に追いやった憎い男に復讐するまでのダークな愛憎劇であり、梶芽衣子の「修羅雪姫」と同じく雪を大いに降らせてリベンジテンションを盛り上げます。
ただ呉服屋の娘が短期間で腕利きの殺陣を披露するというのは無理がありますが、その一方で 緋牡丹博徒にはついになかった濃い濡れ場〔相手は松方弘樹〕が用意されてます。
日本映画にというより ヨーロッパ映画に出てきそうな 顔の掘りの深さと抜群のプロポーションをもつ江波杏子の日本映画における存在感は 偉大なものがあります。
女博徒は江波の存在感を決定的にしました。新幹線でロケに向かう途中、ホンモノのヤクザから「姉さん、今夜 西成〔釜ヶ崎〕で賭博がございます。」と声をかけられたそうです。
江波がキネマ旬報主演女優賞を獲得した斉藤耕一監督の「津軽じょんがら節」。組織の追跡を逃れて とある島にやってきた江波と若い旦那〔織田あきら〕。旦那は漁業に生きる意義を見つけ 盲目の娘と恋仲に。決別を決意した江波が誰にも見送られずに 島を去る時、「あんた、良かったわね…故郷を見つけたんだね…」。
晩年の江波は劇場用映画で主役をはることはなかったが、数年前に天海祐希主演の「離婚弁護士2」第7話「絶対に別れない女」で、江波は最後の “したたかな優しい女” を演じた。
社長夫人の江波に 亭主〔清水紘治〕から離婚をせがまれる。原因は、若い愛人〔中山忍〕との再婚。江波は拒否するが 亭主はマンションから転落して昏睡状態になる。病院のベッドに横たう亭主の耳元に江波が囁く。「この娘が あんたの子供を身ごもったんですって。あんたは、これから先、何年何十年って この子供の成長を見守らなくてはいけないの。だから生きなさい! お願い、生きて。」 。
男勝りな度量と、女である事の強さ。江波杏子は最後まで強い女でした。2020年の10月26日死去。享年76歳。
(新世界東映)